記憶障害・実行機能障害・失認・失語・失行等が主な症状として現れ、その他にも周辺症状として、抑うつ・妄想・幻覚・睡眠覚醒リズム障害・食行動異常であったり、徘徊・暴言・暴力・攻撃性・介護抵抗・不安焦燥といった様々な症状が生じる特徴があります。
認知症の予備軍として軽度認知障害があり、明らかな記憶障害などの認知機能低下はあるものの、病識は保たれ、通常の社会生活を営むことも可能である状態とされています。
認知症予備軍の方に早期に医療介入することで、更に認知症に進展していくことを予防できると考えられており、 難聴に対する治療により軽度認知障害の方が認知症に進展することを予防できると見込まれています。
慶応大学耳鼻咽喉科による群馬県高崎市在住の高齢者の聴覚障害に対してコホート研究が行われ、聴覚障害とうつの関係が検討されました。その結果、難聴がある場合、男性では3倍以上うつになりやすく、また女性の場合約2倍うつになりやすい、という結果が得られました。
視覚低下と比較し、聴覚障害の方がよりうつになりやすい傾向も認められました。
アメリカでの報告では、難聴者の方が、そして女性の方が、うつになりやすいと報告されています。
このコホート研究では難聴を放置していた方に補聴器装用にて介入した場合、うつ発症が予防できることが確認され、また、シドニー大学の報告でも補聴器によりうつ病・認知機能の低下が抑制されると報告されています。
アメリカでの高齢者に対する3ヶ月という短期経過観察でも、認知機能・うつの兆候が抑制されたと報告されています。
25年間追跡調査したフランスでの報告からも同様な結果が得られ、補聴器の装用によってうつや認知症が予防できると考えられています。
聴覚障害と認知機能に関しては、アメリカから難聴が高齢者の認知機能低下に関与するとの報告がされました。
脳機能・構造を低下させる原因としてはこれまで、高血圧・糖尿病による微小血管障害によるものやアルツハイマー病等の神経変性疾患によるものが指摘されていました。今回、聴力低下でも社会的孤立により脳機能が低下し、心理的にも自尊心の低下等が起こることで免疫能の低下が起こり脳機能が低下するとされました。(その他、炎症誘導遺伝子が活性化されて、炎症が増強されるとも報告されています。)
また、25dB以上の聴力低下がある場合、さらに7歳年上の高齢者の認知機能と同等レベルの低下となると解析され、補聴器による補助により、この機能低下を防ぐことができると考えられました。
70歳以上の難聴者の認知機能低下は、健聴者より32%早く生じることも報告され、やはり難聴治療が認知機能防止に有益と考えられました。
難聴程度の増悪により認知症の発症危険度が増加することも指摘されております。軽度難聴で1.8倍、中等度で3倍、高度の場合5倍の危険度となると報告されています。
その他、高齢者の難聴を放置すると、その後の要介護や死亡転機を増加させると報告されている他、脳容積の減少(脳萎縮)の報告もされ、聴力低下が上中下側頭回の脳萎縮と関連することが MRI 画像解析により報告されています。
以上から、痴呆の防御因子の中に、コミュニケーションツールとしての補聴器の装用について提言されはじめております。
難聴治療が認知機能低下または認知症発症を抑制する効果が本当にあるかどうかはまだ不明なところで、ランダム化比較試験(RCT)が現在行われているところです。
WHOによる認知機能低下および認知症のリスク低減ガイドライン 2019 でも、難聴管理については、認知機能低下や認知症のリスクを低減するために補聴器の使用を推奨するエビデンスがまだ不十分であるとされています。
しかしながら、WHO ICOPEガイドラインで推奨されているように、難聴を適時に発見し治療するためにスクリーニングを行い、難聴のある高齢者への補聴器の提供が行われるべきであるとされ、補聴器装用が推奨されています。