聴力低下を生じるのその他の原因

  聞こえが低下したときに、安易に加齢によるものと決めつけることには少し問題があります。耳鼻咽喉科の補聴器外来では「加齢による難聴」と「その他の原因による難聴」を鑑別して診断を行います

  そして、疾患に応じて追加の検査や治療を行っています。

  以下に、聴力低下を生じる代表的なその他の病気を簡単に説明致します。

1.滲出性中耳炎

  鼓膜の内側の鼓室という空間に滲出液がたまり、鼓膜の動きが悪くなって音が伝わりにくくなった状態です。

  (耳の中の空間(鼓室)と鼻腔の奥をつなげて鼓室内の換気をしている耳管という管の機能が低下して、鼓室内部の気圧を外気と同じに保てなくなると、鼓膜の動きが低下していわゆる耳管狭窄状態となり、耳閉感や聴力低下を感じることもあります。)  

  アレルギー性鼻炎で症状が強い時や風邪を引いた後に
鼻をよくすすっていると生じることがあります。乳幼児や高齢者でも見られることがあります。

  多くの場合は
お薬の内服や処置による治療で改善を期待することができますが、症状が長引く場合には鼓膜を切開して、鼓室に溜まった滲出液を吸引除去します。

  それでも改善せずに鼓膜切開を繰り返す場合には、鼓膜の内側と外側を直接換気してくれる鼓膜換気チューブという小さなチューブを鼓膜に留置することで治療します。

2.耳垢栓塞

  お耳の穴に耳垢が完全に詰まって、外耳道を閉塞してしまった場合も聴力が低下します。高齢者の難聴の原因としては、単なる耳垢栓塞も多く見受けられます。

   耳垢をきれいに除去することで
聴力改善が期待できます。

  度重なる綿棒を使ったお耳掃除によって耳垢カチカチに詰め込まれて充満してることもあり、状態によって液体のお薬を差し上げて、少し溶かしてから再度除去することがあります。


3.突発性難聴

  突発性難聴の原因は不明確とされていますが、多くの場合、内耳の血流不全であったり、特定のウィルス感染による内耳の細胞損傷が原因とされています。

  突然にある程度高度の聴力低下を生じ、症状が生じる前後にはめまいや吐き気などを感じることもあります。  

  治療としては
ステロイド薬の内服・点滴や、血液循環を促進する薬剤・神経修復を促進する薬剤の使用が一般的です。

  突発性難聴を生じた場合、早期に治療開始すればするほど有効な治療効果が期待できますので、突然の聴力低下を生じた場合には、お早めの受診をお勧め致しております。


4.メニエール病

  メニエール病では、耳鳴り・めまい・耳閉塞感・聴力低下などを、やはり突然に引き起こします。聴力は変動したり、めまいもしばらく続いた後に自然に改善することがあります。そして、症状が無くなった後も、数ヶ月~数年して再発することがあります。  
  
  蝸牛内の
内リンパ液の代謝異常により内リンパ水腫が生じるためとされています。原因については機能異常説や、自律神経の緊張異常説、アレルギー説、免疫不全説等があり、確定されていません。ストレスの軽減、アルコール・タバコ等を控えることも有効とされ、再発リスクを軽減できるとされています。

  治療は基本的に休息と投薬治療が一般的で、急性期には点滴により治療することがあります。内服薬として、内耳リンパ液貯留を改善する利尿薬であったり、血液循環を促進する薬剤・神経修復を促進する薬剤が使用されます。食塩制限、運動療法、精神神経学的アプローチ、そして手術的加療等も一部行われています。

5.聴神経腫瘍

  蝸牛から脳幹へ音信号を伝える聴神経やこれとともに内耳道を通る平衡感覚に関する上下前庭神経に生じる、神経の支持細胞(神経膠細胞)から生じる良性腫瘍で、腫瘍はゆっくりと増殖する傾向があります。

  腫瘍が大きくなるにつれ聴神経やその他の神経を圧迫するため、症状が進行すると聴力低下のみでなく、めまいや顔面神経麻痺、小脳症状を生じる事があります。   

  治療としては、小さなものであればしばらくは経過観察を定期的に行い、有る程度の大きさとなれば、手術を行うことがあります。 脳神経外科または耳鼻科と合同にて顕微鏡下に確認しつつ腫瘍部分を取り除く必要があります。

7.真珠腫性中耳炎

  真珠腫性中耳炎は鼓膜の一部が固くなり、鼓膜の内側に剥離物を伴って侵入して細菌感染を起こしながら周囲の構造物を破壊しつつ増大していく病気です。

  真珠腫という名称は見た目が白くて真珠のような球状の腫瘤を形成することから名付けられています。(いわゆる細胞の異常増殖によって生じる腫瘍とは異なります。)  

  進展すると鼓膜周囲の骨やその内側にある耳小骨という骨を破壊してその振動伝達機能を低下させることで、難聴を引き起こします。

  真珠種には難聴以外にも、その進展する部位に応じて、めまいや顔面神経麻痺などの症状を生じることがあります。先天的に生じる場合や、それまで慢性的に中耳炎や鼓膜穿孔を繰り返してきた場合にも2次的に真珠腫が生じることもあるので注意が必要です。

  治療ですが、初期の場合で見つけられた場合は外来での鼓膜周辺部の処置・清掃である程度経過観察していくことが可能です。進行・進展している場合には、外科手術が必要となり、病変を取り除いた後に損傷された外耳道壁や鼓膜、そして耳小骨の連結の再建を行います(鼓室形成術といいます)。

  術後の状態を良くするためにも早期発見、早期治療が大切です。

8.耳硬化症

  耳硬化症は蝸牛を形作る骨組織の新生・吸収の異常により起こる病気です。白人・女性に多い病気とされ、比較的若い方でも発症して、徐々に難聴が進行して行きます。

  耳小骨の一つであるアブミ骨が内耳と接する前庭窓という部位に好発しますが、この場合、
アブミ骨底板周囲の靱帯が固着し振動が低下することで内耳への音の伝導が低下して聞こえが悪くなります。蝸牛自体に病変が生じて神経変性を生じることで聴力が落ちることもあります。症状は難聴と耳鳴りですが、耳閉感やめまいが生じることもあります 。 

  多くは様々な聴力低下を自覚されます。例えばベートーベンも耳硬化症を患っていたと言われています。

  治療法としてアブミ骨手術という、動かなくなったアブミ骨を摘出して新しいアブミ骨と取り替える手術を行うことが一般的となります。状態により補聴器を選択したり、人工内耳の埋め込み術を施行することもあります。