ランセットの認知症予防ケア委員会が行った調査によると、世界中に5000万人に及ぶ認知症患者がおり、2050年には患者数が3倍になると報告され、同委員会は認知症の予防や管理に必要な助言や提案を行っております。
認知症患者総数が1億人を超える日が直ぐに到来するということは明白であり、認知症患者のみでなく、家族や友人に対しても早急な対策が必要であると提言されています。
同委員会は2017年のメタ分析にて難聴があると認知症のリスクが約2倍になることを示しました。しかしながら、様々な生活要素に働きかけることで、3分の1の認知症が予防できると報告しています。その9つの要素のうちの1つが中年期(40-65才)における難聴です。
(その他は、教育、運動、社会交流の維持、減煙、うつ病、糖尿病、高血圧、肥満への対処です。)
認知症は一般に65才以降に症状が現れはじめるとされますが、研究では40-65才の間に少しずつ始まるとされており、人生の各ステージにおいて、上の9つの対応可能な生活要因に働きかけることで、「認知症の予防や発症の遅延ができる」可能性があると指摘しました。
難聴を放置した場合に認知症のリスクが高まる機序については未確定ですが、諸研究によると、難聴が脳の認知機能の負荷となり、社会的孤立やうつ状態につながること、また脳の萎縮が加速されることが報告されています。
現在、認知症の発生率減少や発症遅延を目的とした研究が同時並行的になされておりますが、聴力低下への対応についてもその一つとして統計解析が進められております。
聴力低下は訓練を受けた耳鼻咽喉科専門医の助けを借りてはじめて対処できるものです。
聴力の衰えを感じ始めているとしたら、できるだけ早く難聴について何らかの対応をする事が勧められています。
日本でもここ最近、難聴と認知症の関係性について大きく取り上げられていますが、10年以上前から米国では研究が進められていました。
ジョンズ・ホプキンズ大学と米国国立老化研究所との合同研究では、難聴高齢者において加齢に伴う脳の萎縮変化が著しいことがわかりました。この研究チームが高齢者126人を10年間調査し、定期的に脳検査と聴力検査を行いその関係を調べたところ、難聴者では健聴者者と比べ脳の萎縮する速度が早いことが判明しました。具体的には、脳の委縮体積が難聴者の方が健聴者よりも毎年1c㎥以上も大きく、特に音声言語を処理する上・中・下側頭回の萎縮が著しいことが分かりました。
また、難聴者においては、音声言語を処理する脳部位に萎縮が見られた他、“聴覚を含む統合部位”についても聴力低下が原因で影響を受けている可能性が高いと見受けられました。これら部位は様々な部位と連携し機能を発揮するため、一部位の体積減少が全体の機能低下に繋がっている危険性があると考えられています。
具体的に、中側頭回と下側頭回には音声処理以外に記憶と感覚を統合させる役割があり、それらどちらかの部位が萎縮することがアルツハイマー型認知症の初期症状と関連すると考えられました。
上記結果から、難聴と認知症との相関性が示唆され、よって難聴の早期治療の必要性が指摘されました。難聴が脳萎縮の一因となる場合、予防には早期発見・早期治療が必要になるのです。
早めに聴力検査を行い治療を受けることで、認知症を発症する可能性が低くなり、長期的に良好な脳機能を維持でき、心身とも健康状態でいられると期待されています。