CPAP治療は対症療法ですので、機械の使用により無呼吸は改善しますが、機器を使い続けなければ無呼吸は生じてしまいます。 それでは、”積極的にCPAP療法から離脱したい場合どうすればよいか?”ついてご説明致します。 まず、睡眠時無呼吸には肥満が大きく関与していることから、減量が第一目標となります。 下記、減量方法についてご説明致しますが、仮に減量にてCPAP離脱まで至らない場合でも様々なメリットがあります。減量によりCPAP送気圧が減量可能となるのみではなく、治療選択肢の増加(マウスピース、横寝)や合併症の発症可能性を下げる事が出来るのです。 従って、CPAP離脱希望の無い方でも、積極的に減量していく努力を継続する事が勧められております。 減量の為に大切なこと 減量、そして生活習慣病予防のためには継続して運動を実施することが重要で日常生活中の活動量を増やすことから始まります。 生活習慣病を予防するための身体活動量・運動量及び体力の基準値が厚生労働省「健康づくりのための運動基準 2006-身体活動・運動・体力-」(運動基準)にて示されており、減量のために非常に参考となります。また、食事については「食事バランスガイド」を参考にバランスのとれた栄養素の摂取を行い、エネルギーが過剰摂取とならない様に心がけます。 減量目標値設定について 減量目標の設定法法には幾つかありますが、比較的設定が簡便なものを記載致します。 1.AHIが20以下になる体重を目標にする。 体重が10%増加するとAHIは32%増加し、10%やせるとAHIは26%減少するという報告(JAMA 20 3015-3021,2000)があり、これを参考に計算し目標体重を設定します。 2.BMI値25程度を目標にする。 個人差は有りますが、BMI値25が1つの目標とされます。多くの場合10%の体重減少にて肥満による合併症が減少し、15%程度の体重減少にてCPAP離脱も可能となります。 食事療法について 食事については厚生労働省・農林水産省作成の「食事バランスガイド」を参考にして、バランスのとれた栄養素の摂取とエネルギーが過剰摂取とならない様に適切な食事量を心がけます。 肥満状態に至る生活傾向は個人により異なります。各自が食生活を確認し、個々に改めることで肥満解消が可能となります。以下の注意すべき食生活習慣を見直してみましょう。 早食い 朝食を抜く 夜食を取る 野菜を取らない 1日1合以上飲酒 ストレスで食べる 砂糖・甘いもの好き 一度の食事量が多い おやつを毎日食べる 揚げ物、油ものが好き 他人につられて食べる 夜8時以後に食事をする テレビを見ながら食べる 外食やコンビニ弁当が多い ジュース・缶コーヒー等の飲み過ぎ 数日間の食事内容や朝晩の体重の変動を記録し確認することも有効です。1日毎の摂取Kcalを確認し、調整を試みます。男性で1日1600KCal(1食500~600KCal)、女性で1日1200KCal(1食400KCal)の食事でやせ始めるとされます。 目安として1kgの体脂肪が約7000Kcalに換算されます。毎日200~300(250×30日)Kcal減量すると1ヶ月30日で6000~9000Kcalに相当し、約1kg減量出来る計算となります。 その他、特に早くやせる必要のある場合には超低カロリー食(VLCD:Very Low Calorie Diet、マイクロダイエットなど)を医師の管理下で行うことがありますが、この場合1日500Kcal程度の摂取になる為、計算上1日200~250g減量可能となります。 運動療法について 運動療法のメリット 運動は単に減量に有効なだけではなく以下の様々なメリットがあります。 骨・筋肉量を減らさず体脂肪燃焼(食事療法で減りにくい内臓脂肪減少) 筋血流量増加にてインスリンが作用し易くなり、ブドウ糖が筋肉へ移動、血糖値低下とエネルギー代謝が改善し糖尿病予防となる 血中HDLコレステロール(善玉コレステロール)が増加、中性脂肪が減少 心肺機能改善、高血圧も改善 体力(筋力・筋持久力・柔軟性)増加 線溶活性が亢進し血栓症予防 ストレス解消 脳・神経・精神機能の活性化 休息が必要となり、規則正しい生活習慣が得られやすい 運動の種類 運動には大きく分けて2種類が有ります。 有酸素運動(エアロビクス) — 全身持久力養成、ウォーキング、自転車等 無酸素運動(アネロビクス) — 筋力養成、 ランニング、縄とび等 減量の為には短時間の強い筋肉運動(無酸素運動)は必ずしも必要なく、15分以上の軽い有酸素運動を毎日2セット30分以上行うことが推奨されています。この場合食事療法を行っても筋肉量が減少せずに内臓脂肪を減らすことができるとされています。 以下に有効な運動療法の1例を以下に詳細にお示し致します。例えば歩数としては厚生労働省の唱える“健康日本21”において、1日の目標が男性9000歩、女性8500歩となります。(目安として約10分のウォーキングが1000歩です。) 運動量の目安は、厚生労働省「エクササイズガイド」が参考になり後述します。以下、内容を抜粋致します。(エクササイズガイドは2013年に新たに「健康づくりのための身体活動基準 2013」と新基準が示されました。) 身体活動・運動 上記運動指針では身体活動・運動・生活活動を次のように定義しています。 1.「身体活動」 安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動き 2.「運動」 身体活動のうち体力維持・向上を目的とし計画的・意図的に実施されるもの 3.「生活活動」 身体活動のうち、運動以外。(職業活動上のものも含む) 身体活動の強さの単位を「メッツ」とし、身体活動量の単位を「メッツ・時」で「エクササイズ」とします。 ①「メッツ」 身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す。 座位安静状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当。 ②「エクササイズ(Ex)」(=メッツ・時) 身体活動量を表す。 身体活動の強度(メッツ)に身体活動実施時間(時)をかけたもの。 強い身体活動ほど短い時間で1エクササイズとなる。 (例)3メッツの身体活動を1時間行った場合: 3メッツ×1時間=3エクササイズ(メッツ・時) 6メッツの身体活動を 30 分行った場合 : 6メッツ×1/2時間=3エクササイズ(メッツ・時) ★「メッツ」と「エクササイズ」という身体活動単位を使用することにより、活動量を体重に関係なく示す事が可能です。エネルギー消費量単位:カロリー(kcal)を用いた場合には体重により下記のように差が生じてしまいます。 ★1エクササイズの身体活動量に相当するエネルギー消費量 体重による簡易換算式: エネルギー消費量(kcal)=1.05×エクササイズ(メッツ・時)×体重(kg) 体重 50kg で 53kcal 体重 60kg で 63kcal 体重 70kg で 74kcal 体重 80kg で 84kcal 体重 90kg で 95kcal 健康づくりのための身体活動量 1.身体活動量の目標 週 23エクササイズ(メッツ・時)の活発な身体活動。 うち4エクササイズは活発な運動。 (活発な身体活動とは、3メッツ以上の身体活動。) 参考:1エクササイズに相当する活発な身体活動 運動の例 20分 ボーリング、バレーボール、フリスビー、ウェイトトレーニング(軽・中強度) 15分 速歩、ラジオ体操、ゴルフ、卓球、バトミントン、アクアビクス、太極拳 10分 ジョギング、ウェイトトレーニング(高強度)、ジャズダンス、エアロビクス、 バスケットボール、水泳(ゆっくり)、サッカー、テニス、スキー、スケート 7-8分 ランニング、水泳、柔道、空手 生活活動の例 20分 普通歩行、床掃除、荷物の積み下ろし、子どもの世話、洗車 15分 速歩、自転車、介護、庭仕事、子どもと遊ぶ(歩く/走る、中強度) 10分 芝刈り(電動芝刈り機) 家具の移動、階段昇降、雪かき 7-8分 重い荷物を運ぶ 運動療法が勧められない方 一概に運動療法が勧められない場合もありますので、下記に該当される場合はご注意下さいませ。 1. 運動で骨・関節を痛める可能性がある高度肥満者 2. 極めて不良な血糖コントロール、下記合併症の進行した糖尿病患者 →空腹時血糖が 250mg/dl 以上 またはケトーシス状態 →糖尿病性腎症で腎不全、眼底出血が危惧される糖尿病性網膜症、 高度自律神経障害 3. 著しい高血圧(収縮期血圧180mmHg以上) 4. 不安定な虚血性心疾患・心不全・腎機能障害・進行肝障害(肝炎・肝硬変) 5. その他、体調不良等(風邪・頭痛・発熱・腹痛・下痢・寝不足・二日酔い) 運動療法と食事療法について 減量時には体の脂肪の70~90%が減少します。その他筋肉・腺・血液について30~35%、骨の10~15%、神経系の1~2%が減少するとされます。 減量の為に運動療法を行う場合、前述の様に食事療法との併用が大切であり、減食に慣れた頃に運動を開始すると筋肉量の減少を防げるとされています。糖質(炭水化物)は一定量摂取すべきとされていて、主食を抜いた場合にはとたんぱく質が消費される事で筋肉量が減少するとされます。 運動強度について 体力 (1) 健康づくりのための体力 体力は、持久力・筋力・バランス能力・柔軟性など、身体活動の複数の要素から構成されており、特に持久力、筋力が高いと生活習慣病発症リスクが低くなるとされています。体力を向上させることで生活習慣病を予防することが期待されます。 (2)体力に応じた運動 運動内容は体力に応じたものを選択する必要があり、体力レベルより低い運動では効果が現れず、過度な運動は怪我の原因となります。 持久力中心の運動(ジョギングやランニング等)を行うのか、筋力中心の運動(筋力トレーニング等)を行うのかを決め、配分を決めます。 前後にストレッチを含む準備・整理運動を含めバランス良く運動することが大切で、健康運動指導士等の専門家に相談することも有効です。 運動を行うにあたり 運動を行うにあたり事故予防のため、体調や天候・持病等に注意します。持病のある場合、はかかりつけ医に相談してから実施します。 (1)注意事項 ① 事故予防と疲労軽減の為に準備運動と整理運動を必ず行います。 ② 膝痛・腰痛等の持病のある方はかかりつけ医や運動指導専門家に相談して始めます。運動中・後に痛みが発生する場合には運動を中断します。 ③ 循環器疾患等の持病のある方は血圧が高まることがあるため、かかりつけ医や運動指導専門家に相談して始めます。運動前に血圧や体調を確認、体調不良の場合は運動を中止します。 ④体調に合わせて運動量・強度を調節します。 ⑤夏場に屋外や高温の場所で運動する場合は脱水・熱中症に注意して予防のために運動前・中・後に水分を取ります。 ⑥気候に合っていて体が自由に動けるものを着用し、靴は膝・足関節に負担のかからないスポーツシューズを使用します。 (2)準備運動・整理運動 身体活動・運動による傷害・痛みは頻繁・活発に使われる部位に生じることが多く、ストレッチ等の準備・整理運動は運動種類に応じて傷害や痛みの発生し易い部位を中心に行います。 ストレッチは20秒程度かけ筋や関節を伸ばし、軽い体操を緩やかに大きな動きで行って筋・関節をほぐします。 ①呼吸は止めません。 ②痛みを感じない程度にゆっくり伸ばします。 ③ストレッチにて十分伸びている感覚を意識します。 ④反動利用や押さえつけはしません。 体力の評価 体力に応じた適度な運動を行うには現在の体力を評価することが大切です。 持久力と筋力の評価方法が例示されています。 1.持久力の評価 ①3分間ややきついと感じる速さでの歩いた距離を測定します。 ②測定した距離から持久力を評価します。 例えば30歳代男性で360m、30歳代女性で345m、 40歳代男性で360m、40歳代女性で330m、 50歳代男性で345m、50歳代女性で315m が年代と相応する距離となります。 ③測定した距離が対応する距離以上の場合、持久力は生活習慣病予防の目標持久力以上とされます。 ④測定した距離が上記未満の場合目標持久力とされます。 2.筋力評価 加齢の影響を受ける下肢筋力の評価方法が例示されています。 ①背筋を伸ばして椅子に座ります。 ②両手は胸の前で腕組みします。 ③膝が完全に伸びるまで立ち上がります。 ④すばやく①の座った姿勢に戻ります。 上記、椅子の座り立ちを10回行い時間を測定します。 測定時間から自分の筋力を評価します。座る時お尻が椅子に付かない場合や膝が完全に伸びない場合は1回とされません。 測定時間結果が普通又は速いに相当するならば、筋力は生活習慣病予防の目標となる状態に達しています。 性・年代別の時間(秒) 30歳代男性で普通で7-9秒、早くて6秒以下、遅くて10秒以上、 30歳代女性で普通で8-9秒、早くて7秒以下、遅くて10秒以上、 40歳代男性で普通で8-10秒、早くて7秒以下、遅くて11秒以上、 40歳代女性で普通で8-10秒、早くて7秒以下、遅くて11秒以上、 50歳代男性で普通で8-12秒、早くて7秒以下、遅くて13秒以上、 50歳代女性で普通で8-12秒、早くて7秒以下、遅くて13秒以上 が年代と相応する時間となります。 (参考:早稲田大学福永研究室資料) 身体活動量の目標設定 1.目標設定の考え方 身体活動量目標である週23エクササイズの身体活動を歩数に換算すると1日当たり8000~10000歩程度(週56000~70000歩程度)とされます。 週4エクササイズの運動は速歩で約60分、テニスで約35分に相当します。 a.身体活動量の目標設定 現在の身体活動量が目標に達していない人は、歩行・自転車等の生活活動を増やし目標量を達成させます。(歩数計は手軽に使用できます。) 目標達成されている場合、現在の身体活動量を維持し評価結果に応じた運動を行い体力向上を目指します。 b.運動量の目標設定 身体活動量の評価結果から運動量を把握し、運動習慣と体力に応じた目標を設定します。 運動習慣のない方は、週2エクササイズから始め、4エクササイズを目標に少しずつ運動量を増加させます。 運動を週に4エクササイズ以上実施している方は10エクササイズを目標に運動量を増やすようにします。 2.体力に応じた運動を 運動を行うにあたり体力に応じた運動を行うと効果的とされます。持久力と筋力を向上させる運動が例示されています。 a.持久力向上 速歩、ジョギング、自転車、水中運動、水泳、球技、ダンス等。 ややきついと感じる強さが安全に持久力を向上させるとされます。 速歩が特に勧められており、ややきつい運動の強さは以下となります。 ・いつもより速い ・ちょっと息が弾むが、笑顔が保てる ・長時間運動が続けられるか少し不安 ・5分程度で汗ばむ ・10分程度の運動ですねに軽い筋肉痛 新たに運動を始める場合、かなり楽な強さから始め、少しずつ強さを増してややきつい強さの運動を目指します。 運動量は週4エクササイズを目指します。 b.筋力向上 自宅でできる体重負荷の筋力トレーニングが例示されています。専門家指導の元、マシンを用いた筋力トレーニングも有益とされます。 正しい姿勢で反動をつけずゆっくりと呼吸を止めず、筋肉を意識して行います。 ① スクワット(大腿部前面、大腰筋) 1)足を肩幅にハの字に開いて背筋を伸ばし、両腕を前に伸ばす。 2)つま先と膝が同じ方向に曲がることを確認し、3秒間で椅子に座るように膝を曲げて1秒間姿勢を保持する。 3)3秒間で元の姿勢に戻す。 *膝がつま先より前に出ないように。 *下を向かないように。 ② ヒップエクステンション(大腿部背面、臀部) 1)背筋を伸ばし腰の位置を固定したまま、お尻の下に力を入れる。 2)3秒間でかかとから足を後ろへ上げ、1秒間姿勢を保持する。 3)3秒間で足を元に戻す。 *上半身が前傾しないようにする。 *足を上げる際は腰を反らさない。 *椅子に体重をかけない。 ③ 腕立て伏せ(胸、腕) 1)膝を少し曲げた状態で膝を床につけ、両腕を床に対して垂直に伸ばす (肘は少し曲げる)。 2)両手を肩幅よりやや広めにおき、指先をやや内側に入れる。 3)ゆっくり肘を曲げ、1秒間保持する。 4)ゆっくり元の姿勢に戻す(腰を反らさない)。 ・遅い→①~③の各種目 10回×1セットを週5~7回 ・普通→①~③の各種目 10回×2セットを週5~7回 ・速い→①~③の各種目 10回×3セットを週5~7回 *筋力に自信の無い場合、最大2セットとします。 日常生活では階段や坂道の上り下りなどでも筋力向上が期待できます。 目標を達成するために 1.アドバイス 日常生活の中で生活スタイルに合わせた運動を行うことが大切で、生活ステージに応じた工夫を行うことが効果的とされます。 a.生活活動量増加に向けて 日常生活での歩数を増加させることが有効であるため、歩行習慣を身に付ける様にします。 歩行習慣への6ポイント ①歩数を歩行時間で記憶。(10分間で約1000歩) ②生活行動パターンを体で記憶。(買い物は何歩、通勤は何歩) ③欲張らない。(まず1日1000歩増やし、3ヶ月で4000歩増やす) ④歩行は不連続でも良い。(1日合計1万歩、週間合計で7万歩) ⑤日常生活で歩行移動機会を多くつくる。 ⑥歩行に目的を持たせる。(休日ショッピング,史跡訪問) b.運動量増加に向けて 週毎の総運動量が基準に達しているか確認。 速歩の場合、週1回60分でも週6回10分ずつでも生活スタイルに合わせる 2.ステージに応じたアドバイス 生活ステージに応じた身体活動や運動を実行・継続するためのアドバイスが「健康づくりのための運動基準 2006-身体活動・運動・体力-」で紹介されています。3~6カ月ごとに再評価を行い目標を設定することが勧められています。 内臓脂肪減少のための身体活動量 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に該当する方・予備群の方も運動により内臓脂肪を減らすことが期待できるとされます。 1.内臓脂肪を減らす必要性 メタボリックシンドローム該当者とは、内臓脂肪型肥満(腹囲が男性85cm 以上、女性 90cm以上)に加え、高血糖・血中脂質異常・高血圧のうち2つ以上を合併した状態で、予備群とは内臓脂肪型肥満に加え上記のうち1つを合併した状態です。 メタボリックシンドローム該当者・予備群は複数リスクが重なることにより、心筋梗塞や脳卒中を発症する可能性が非常に高くなるとされます。 運動量不足や過食等生活習慣に原因があるとされ、運動量増加と食事改善から内臓脂肪減少が可能で心筋梗塞・脳卒中等のリスク軽減が期待されます。 2.運動と食事改善の併用が効果的 内臓脂肪の蓄積指標となる腹囲の1cm減少は約1kgの体重(大部分が脂肪)減少に相当し、体重を1kg減少させるためには運動によるエネルギー消費増加と食事改善によるエネルギー摂取減少を合わせ約7000kcalの減量が必要とされます。(例えば1月で1cm腹囲を減少させるため1日当たり約230kcalの減量が必要) 運動のみで体重減少させるより食事改善と合わせ行う方が体重減量が期待出来、内臓脂肪減少量も大きくなります。 運動に加え「食事バランスガイド」等を参考に食事改善を行うと内臓脂肪減少がより可能となるとされます。 3.内臓脂肪減少に必要な運動量 健康づくりの為には週4エクササイズの運動が目標ですが、内臓脂肪減少には週10エクササイズ程度以上の運動量が必要です。 速歩30分間を週5回で10エクササイズに相当、食事摂取量を変えず週10エクササイズ程度の運動量増加で1月1-2%近く内臓脂肪が減少します。 4.内臓脂肪減少へ目標設定 内臓脂肪減少のための目標作成が勧められます。腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上の人は自分に適した腹囲の減少法を作成してみましょう。 腹囲の測定方法 ・立位・へその高さで計測 ・両足を揃え、両腕は身体の横で自然に下げ、お腹に力を入れず、呼吸は意識せず、呼気終わりに目盛を読み取ります。 ・巻き尺を背中や腰に水平にして、下着は付けない。 「健康づくりのための身体活動基準 2013」 抜粋 厚生労働省は健康日本 21(平成12~24年度)として、身体活動・運動に関する普及啓発等に取り組んで来ました。 平成18年に”健康づくりのための 運動基準 2006~身体活動・運動・体力~ 報告書”(「旧基準」)、"健康づくりのための運動指針 2006~生活習慣病予防のために~<エクササイズガイド 2006>"(「旧指針」)が策定されています。 平成25年度からの健康日本21(第二次)を推進するため厚生労働省健康局長のもと運動基準・運動指針の改定に関する検討会が開催されました。 身体活動の意義 身体活動不足は、肥満・生活習慣病発症の危険因子で高齢者自立度低下や虚弱の危険因子となります。平成9年と平成21年の比較で15歳以上の1日歩数平均値は男女ともに約1000歩減少(1日約10分の身体活動の減少に相当)しており、総合的健康増進の観点から身体活動を推奨する重要性が高まっています。 基準改定の趣旨と目的 「健康づくりのための身体活動基準 2013」(「新基準」)は、健康日本21(第2次)を推進するため、「健康づくりのための運動基準 2006」(「旧基準」)を改定し、こどもから高齢者まで基準設定を検討して生活習慣病患者やその予備群の者及び生活機能低下者(「生活習慣病患者等」)における身体活動の在り方についても言及、利用者の視点に立った普及啓発を強化しました。新基準の名称は「運動基準」から「身体活動基準」に変更されました。 身体活動推進には個人努力のみでなく、まちづくりや職場づくり等で個人の健康を支える社会環境を整備することが重要で、新基準が自治体や企業の関係者に活用されることが期待されています。 身体活動と健康日本21(第2次) 考え方・概念 ①個人の生活習慣改善と社会環境改善を通じた生活習慣病の発症予防・重症化予防、そして社会生活機能の維持・向上により個人生活の質向上を目指す。 ②健康資源へのアクセス改善等を通じて社会環境の質向上を図り、健康寿命延伸・健康格差縮小を実現する。 身体活動に関連した目標項目 身体活動(生活活動・運動)の目標項目 「日常生活における歩数増加(1200~1500歩)」 「運動習慣者割合の増加(約10%増加)」 「住民が運動し易い街作り・環境整備に取り組む自治体増加(47都道府県)」 身体活動に関連する目標項目 「ロコモティブシンドロームを認知する国民割合増加(80%)」 運動習慣定着や食生活改善等、行動変容が期待でき、国民全体の運動器健康増進と要介護者割合減少が期待できる。足腰痛を認める高齢者割合の約1割減少等を目標に健康寿命延伸を目指す。 個人の健康づくりのための身体活動基準 生活習慣病等の発症リスク低減のため個人で達成が望ましい身体活動基準を研究を元に年齢区分されているが、適用する際は柔軟に対応する。 1.18~64歳の基準 ①身体活動量の基準 <18~64 歳の身体活動(生活活動・運動)の基準> 強度3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週、具体的に歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。 健康日本21(第二次)において、平成34年度の時点で20~64歳の1日歩数平均値を男性9000歩、女性8500歩を目指す。 3メッツ以上の強度の身体活動で23メッツ・時/週は約6000歩に相当し、3メッツ未満の低強度の日常身体活動量に相当する2000~4000歩を加えると8000~10000歩となる。 【参考】 「3メッツ以上の身体活動(歩行又は同等以上の動き)」 <生活活動> ・普通歩行(3.0メッツ) ・犬の散歩(3.0メッツ) ・そうじ (3.3メッツ) ・自転車 (3.5~6.8メッツ) ・速歩き (4.3~5.0メッツ) ・こどもと活発に遊ぶ(5.8メッツ) ・農作業 (7.8メッツ) ・階段を速く上る (8.8 メッツ) ②運動量の基準(スポーツや体力づくり運動量) <18~64歳の運動の基準> 強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う。 (息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。) 【参考】 「3メッツ以上の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)」 ・ボウリング、社交ダンス(3.0メッツ) ・体重による軽い筋力トレ(3.5メッツ) ・ゴルフ (3.5~4.3メッツ) ・ラジオ体操 (4.0メッツ) ・卓球 (4.0メッツ) ・ウォーキング (4.3メッツ) ・野球 (5.0メッツ) ・ゆっくり平泳ぎ (5.3メッツ) ・バドミントン (5.5メッツ) ・マシーン筋トレ (6.0メッツ) ・ゆっくりジョギング (6.0メッツ) ・ハイキング (6.5メッツ) ・サッカー、スキー (7.0メッツ) ・テニス、シングルス (7.3メッツ) ③体力(うち全身持久力)の基準 <性・年代別の全身持久力の基準> 下に示す強度の運動を約3分以上継続できた場合、基準を満たすと評価 年齢 18~39 歳 40~59 歳 60~69 歳 男性 11.0 メッツ 10.0 メッツ 9.0 メッツ (39ml/kg/分) (35ml/kg/分) (32ml/kg/分) 女性 9.5 メッツ 9.5 メッツ 7.5 メッツ (33ml/kg/分) (30ml/kg/分) (26ml/kg/分) 生活習慣病や生活機能低下リスクを減らす為には身体活動量を増やすのみでなく適切な運動習慣を確立し体力向上を目指す。 体力指標のうち生活習慣病等の発症リスク低減すると十分に科学的根拠が示された指標は全身持久力のみで、新基準では身体活動強度との関係を理解し易くする為、強度の指標メッツでも表示されました。 (最大酸素摂取量ml/kg/分を安静時酸素摂取量3.5ml/kg/分で除した単位がメッツ) 旧基準では20歳代から70歳代まで10歳毎の最大酸素摂取量の基準値を示していましたが新基準では10歳毎に基準値は示さなくなりました。 【参考】 全身持久力に関する基準値の活用方法 ○体力のアセスメント 10.0メッツ強度の運動、例えばランニングなら167m/分(10 km/時)の速度 で3分間以上継続できれば「少なくとも40~59歳男性の基準値に相当する10.0メッツの全身持久力がある」とします。 ○至適なトレーニング強度の設定 基準値の50~75%の強度の運動を習慣的に(1回30分以上、週2日以上)行うと安全・効果的に基準全身持久力を達成・維持することができます。例えば50歳男性で至適強度目安として5メッツ(=10.0メッツの50%)が推奨されます 2.65歳以上の基準 <65歳以上の身体活動(生活活動・運動)の基準> 強度を問わず身体活動を10メッツ・時/週行う。 具体的に、横になったままや座ったままにならないどんな動きでもよいので身体活動を毎日40分行う。 旧基準では70歳以上の高齢者の基準は示されていないものの、新基準では高齢者に関する身体活動基準が示されました。 高齢者は自立生活を送るため運動器を機能維持する必要があり、高齢期に骨粗鬆症に伴う易骨折性と変形性関節症等による関節障害が合併し易いこと、サルコペニア(加齢に伴う筋量・筋力減少)により寝たきり等に至るリスクが高まるため高齢期に身体活動不足に至らないよう注意喚起されています。高齢者の身体活動不足予防の為に示されていますが、可能であれば3メッツ以上の運動を含めた身体活動に取り組んで身体活動量の維持・向上を目指すことが望ましいとされます。 【参考】3メッツ未満の身体活動(生活活動・運動) ・皿洗い (1.8メッツ) ・洗濯 (2.0メッツ) ・立って食事の支度(2.0メッツ) ・こどもと軽く遊ぶ(2.2 メッツ) ・買い物や散歩 (2.0~3.0メッツ) ・ストレッチング (2.3メッツ) ・ガーデニング・水やり(2.3メッツ) ・動物の世話 (2.3メッツ) ・座ってラジオ体操(2.8メッツ) ・ゆっくり平地歩き(2.8メッツ) 注)体力を有する高齢者は3メッツ以上の身体活動を行うことが望ましいとされます。 3.18歳未満の基準(参考) 18歳未満に関しては身体活動(生活活動・運動)における生活習慣病等及び生活機能低下のリスク低減効果につき十分な科学的根拠がなく、現段階で定量的な基準は設定されていません。 4.全ての世代に共通する方向性 ①身体活動量の方向性 <全年齢層における身体活動(生活活動・運動)の考え方> 現在の身体活動量を少しでも増やす。例えば今より毎日10分ずつ長く歩く。 ②運動の方向性 <全年齢層における運動の考え方> 運動習慣を持つ。具体的には30分以上の運動を週2日以上行う。 体力(全身持久力や筋力等)向上や運動器機能向上の為4メッツ・時/週に相当する1回あたり30分以上週2日以上の運動が最低限必要とされます。 運動習慣により生活習慣病及び生活機能低下等のリスク低減効果が高まり体力の維持・向上に有用となります。 高齢期においてはロコモティブシンドローム・軽度認知障害の改善が期待でき、運動量基準に加え全ての世代で運動習慣を有することが望ましいとされます。 薬物療法 BMI35以上の高度肥満で食事・運動療法のみの治療が困難な場合、補助的に食欲抑制薬(マジンドール:商品名サノレックス)が使用されることがあります。脳内ドーパミン・セロトニン・アドレナリン等神経伝達物質の再取り込み抑制作用から消費エネルギーを促進し、食欲も抑制されます。 保険診療上は投与期間は3ヶ月までとなり、精神依存/耐性発現の可能性があります。漢方薬(防風通聖散)については減量効果は強くありません。 外科治療 海外と比較し国内で手術を必要とする場合は限定されています。手術としては具体的には胃と腸を短絡する方法等があります。 参考: いろいろな身体活動の1エクササイズ(メッツ・時) の値 「3メッツ」以上の運動 3.0 自転車エルゴメーター、とても軽い活動、ウェイトトレーニング(軽・中等度)、ボーリング、フリスビー、バレーボール 20分 3.5 体操(家で、軽・中等度)、ゴルフ(カートを使い待ち時間を除く) 18分 4.0 速歩(平地、95~100m/分程度)、水中柔軟体操、卓球、太極拳、アクアビクス 15分 5.0 ソフトボール/野球、子ども遊び(石蹴り、ドッジボール、遊戯具、ビー玉遊びなど) 12分 6.0 ウェイトトレーニング、美容体操、ジャズダンス、バスケットボール、スイミング 10分 7.0 ジョギング、サッカー、テニス、水泳:背泳、スケート、スキー 9分 8.0 サイクリング、ランニング、クロール、 8分 10.0 ランニング、柔道、柔術、空手、キックボクシング、テコンドー、ラグビー、平泳ぎ 6分 15.0 ランニング:階段を上がる 4分 「3メッツ」以上の生活活動 3.0 普通歩行、屋内掃除、大工仕事、車荷物下ろし、階段下りる、子ども世話(立位) 20分 3.3 歩行(平地、通勤時など)、カーペット掃き、フロア掃き 18分 3.5 モップ、掃除機、箱詰め作業、軽い荷物運び、電気関係の仕事、配管工事 17分 3.8 やや速歩(平地、やや速め)、床磨き、風呂掃除 16分 4.0 速歩、自転車、通勤、高齢者介護、屋根の雪下ろし、車椅子を押す 15分 5.0 子どもと遊ぶ・動物の世話、かなり速歩(平地、速く=107m/分) 12分 「3メッツ」未満の身体活動 1.0 座って(寝転がって)テレビ・音楽鑑賞、リクライニング、車に乗る 1.2 静かに立つ 1.3 本や新聞等を読む 1.5 座位会話、電話、読書、食事、運転、軽いオフィスワーク、編み物・手芸、 動物世話、入浴 1.8 立位会話、電話、読書、手芸 2.0 料理/食材準備、洗濯物を洗う、ギタ ー(座位)、着替え、食事、歯磨き、シャワー、歩行 2.3 皿洗い(立位)、アイロンがけ、服・洗濯物片付け、カジノ、、立ち仕事(店員、工場など) 2.5 ストレッチ、ヨガ、掃除、テーブルセッティング、ピアノ、キ ャッチボール、オートバイ 2.8 子どもと遊ぶ(立位、軽度)、動物の世話(軽度) Ainsworth BE, Haskell WL, Whitt MC, et al. Compendium of Physical Activities: An update of activity codes and MET intensities. Med Sci Sports Exerc, 2000;32 (Suppl):S498-S516. 国際的動向 WHO 健康のための身体活動に関する国際勧告 WHOは高血圧(13%)、喫煙(9%)、高血糖(6%)に次ぎ身体活動不足(6%)を全世界の死亡に対する危険因子第4位とし、2010年に対策として「健康のための身体活動に関する国際勧告(Global recommendations on physical activity for health)」を発表。5~17歳、18~64歳、65歳以上の各年齢群に対し有酸素性身体活動時間・強度に関する指針及び筋骨格系の機能低下を予防する運動頻度等を示した。 身体活動のトロント憲章2010 平成22年第3回国際身体活動公衆衛生会議にて「身体活動のトロント憲章2010」として9つの指針と4つの行動領域が採択されました。指針では科学的根拠に基づき身体活動格差を是正する分野横断的な取組が重要で、身体活動の環境的・社会的決定要因の改善に取り組む必要があり、子供から高齢者まで生涯を通じたアプローチが求められること等が示されています。行動領域では国としての政策 行動計画の策定・実行、身体活動に重点を置く方向にサービスや財源を見直すこと等 挙げられました。 The Lancet 身体活動特集号 平成24年7月、国際的医学誌The Lancetにて身体活動特集号が発表され、その中で世界全死亡数の9.4%は身体活動不足が原因で、肥満や喫煙に匹敵し世界的に「大流行している状態である」との認識が示されました。 ”小児の睡眠時無呼吸症候群”はこちらへ 小児の睡眠時無呼吸