1.耳介
3300Hz以上の音波を集音する。
方向感に関与している。
2.外耳道
共鳴管として10dB程度の音圧増強作用がある。
3. 中耳
中耳は外耳道に入った音圧(音響エネルギー)を効率よく内耳まで液体振動に変換して伝達する。
鼓膜の振動と耳小骨の振動によって音圧は増強されている。
中耳の音圧増強作用には、耳小骨によるテコ比と鼓膜面積・アブミ骨底面積の面積比が関与しており、音圧は約20倍、dB換算で約27.5dB 増強され内耳に伝わる。
中耳なしでは内耳へ伝わる音響エネルギーは0.1%程度にすぎないとされる。
4. 中耳の臨床病態生理
中耳炎や中耳手術等により鼓膜ツチ骨キヌタ骨を取り去った場合、40~60dB の聴力損失が各周波数において生じる。
(中耳の音圧増強効果の喪失により28dBの低下、中耳腔の変形により2~5dBの低下、鼓膜喪失のため前庭窓蝸牛窓の両方から音波が伝わり相殺・喪失分12dB )
耳小骨が鼓室壁に付着した場合、約50dB の聴力損失。
耳小骨連鎖離断の場合、鼓膜が残っていても聴力損失は約60dB
5.内耳の振動
アブミ骨の振動から蝸牛内リンパ液に波動が起こり、基底板を振動させて進行波を生じさせる。
この進行波の最大振幅は周波数によって異なる部位に発生し、最大振幅部位は高音では基底回転付近に低音では頂回転付近に認められる。
この進行波は蝸牛周囲の骨自体の振動でも生じる。
内耳外有毛細胞の伸縮運動が基底板の運動を増強させ、弁別能の向上に寄与するとされる。
6.蝸牛内電気現象
蝸牛内静止電位として蝸牛管80mV、ラセン器-70mV、前庭階0mV、 鼓室階-2~0mV とされる。
音響刺激時に音波に一致した電気変動が大きな振幅となって蝸牛に生じ、蝸牛にマイクロ構音作用があることが判明している。
基底板の進行波によって有毛細胞と蓋膜との間にズレが生じて聴毛が屈曲することで有毛細胞のイオンチャンネルが開いて外有毛細胞が脱分極と過分極を繰り返す。
この時発生する電位差を蝸牛マイクロホン電位と言う。
電位変化により神経伝達物質の放出量が変化し、蝸牛神経神経終末に伝わる神経の興奮が生じ、音響の機械的エネルギーが電気エネルギーに転換される。
その他、加重電位と言うラセン器内部からの直流電位がある。
聴神経活動電位と言う蝸牛神経全体に生じるスパイク放電の総和を表す電位もある。
7.内耳液
外リンパ液と内リンパ液からなる。
外リンパ液は細胞外液と同様な化学組成で、内耳で生成され、髄液にも由来するとされ、鼓室階壁で吸収される。
内リンパ液は細胞内液に近い組成で血管条で生成され吸収されるとされ、内リンパ嚢でも吸収されるとされる。
外リンパと組成を同じくして、コルチリンパがあり、感覚細胞はコルチリンパに接して代謝・栄養補給を受ける。
内耳の生理的現象を維持するためには生化学的エネルギーが必要で、酸素が必要不可欠で、TCA回路が利用されている。
8. 中枢聴覚伝導路と聴皮質中枢
有毛細胞から放出された神経伝達物質が蝸牛神経にスパイク放電を生じさせると音に対する神経が応答する。
各神経線維ごとに鋭敏に反応する音響周波数が決まっていて、音波の強さが増すごとに放電回数が増加し、活動線維数が増加する。
応答ニューロンは高位になるほど精密となり、音の調子や強さなどの分類は内側膝状体で完成する。
内側膝状体から聴放線を形成し、同側の側頭葉背側面にある一次聴覚野へ伝達する。この Brodmann41野は後方から前方に向かって低音から高音に応じ配列し、周波数の局在性が認められている。
横側頭回外側部と上側頭回に2次聴覚野があり、上側頭回後部には感覚性言語中枢が存在する。
音響性質の分析が内側膝状体で完成した後に聴皮質の広い部分で再合成及び統合が行われると考えられていて、音色の認知や弁別については、皮質において行われるとされる。
音響情報を意識して抽出する作用は、求心性伝導路及び脳幹網様体に関連する神経線維・神経核、遠心性伝導路によるフィードバック作用などから行われる。
神経回路網により分析・分類され再構成された聴覚情報は最適化され対比増強が行われて、基本周波数やホルマント構造、子音が抽出されパターン認識されることによって語音として感じられるとされる。
両耳の聴覚作用としては、加重現象・融合現象・分離現象・音源定位が挙げられる。