顔面神経麻痺

顔面神経麻痺
 表情が無くなり、咀嚼・発語・味覚・瞬目等が障害
 社会生活に支障をきたす
 顔面神経内に3種類の神経線維
   表情筋やアブミ骨筋・顎二腹筋後腹・茎突舌骨筋への運動線維
   涙腺や鼻腺・口蓋腺・顎下腺・舌下腺への分泌副交感神経線維
   舌前方2/3への味覚線維
 運動神経
   大脳皮質より延髄顔面神経核で中継、内耳道を通り側頭骨へ
   側頭骨内部で茎乳突孔を出るまで
     内耳道部・迷路部・鼓室部・錐体部・乳突部に分類
   茎乳突孔から前進、耳下腺内で側頭顔面枝、頚顔面枝に二分
   以後上下側頭枝・頬骨枝・頬枝・下顎縁枝・頸枝の6枝に分枝
 副交感神経線維
   上唾液核~中間神経となり膝神経節で顔面神経に合流
   鼓索神経・舌神経~顎下神経節を通り顎下腺・舌下腺へ
   膝神経節~大錐体神経~翼口蓋神経節~涙腺・鼻腺・口蓋へ
 味覚線維
   舌前2/3~舌神経~鼓索神経~顔面神経~中間神経~孤束核へ
   口蓋からの味覚は大錐体神経~膝神経節~中間神経に

 
顔面神経麻痺
  上部ニューロン障害と下部ニューロン障害とに分けられる
  上部ニューロン障害
   中枢性或いは核上性麻痺
   顔面下半分の麻痺と片麻痺や各種の中枢神経症状が随伴
   髄膜炎・脳膿瘍・脳腫瘍・脳出血等が原因





  下部ニューロン障害
   顔面神経核以下の障害によるもの
   脳幹性麻痺(核麻痺)と末梢性麻痺に分かれる
   脳幹性麻痺
    脳橋部腫瘍・多発性硬化症・進行性球麻痺・血栓症・頭部
   末梢性麻痺
    聴神経腫瘍・橋角部腫瘍・真珠腫性中耳炎など頭蓋内麻痺
    Rumsey Hunt 症候群や Bell麻痺・顔面神経鞘腫
    急性中耳炎などによる側頭骨内麻痺
    耳下腺腫瘍や外傷による側頭骨外麻痺
    サルコイドーシスや白血病等その他疾患による麻痺
    乳幼児の場合Mobius症候群、先天性頚顔面筋形成不全、
          中耳奇形、分娩外傷等により生じることあり

 麻痺の原因別頻度
   Bell麻痺、Rumsey Hunt 症候群が大部分

 中枢性麻痺
  前頭筋は両側運動神経支配、額の運動は障害されず
  病巣対側の顔面下半分が麻痺をする。
 核性・末梢性麻痺
  額の運動も障害
  顔面のシワが消失・眼瞼下垂、鼻唇溝が浅く、人中が健側へ
  閉眼も困難、口笛や頬の膨らませができない

 中枢性・核性麻痺では味覚や涙分泌は障害されない。
 手術性麻痺は術中神経損傷・切断、術後神経鞘浮腫・出血(遅発性)
 頭部外傷性麻痺
  頭蓋底骨折によるものがほとんど
  横骨折に伴う事が多い
  即発性・完全型では予後悪く、手術を要する
  水平部や膝部が損傷される

 耳性帯状疱疹
  潜伏している水痘帯状疱疹ウイルスが再活性したもの
  Rumsey Hunt 症候群
    外耳道・耳周辺部位の疱疹・顔面神経麻痺・耳鳴・難聴等
  麻痺発生前に頭痛や耳痛、水疱が外耳道・耳介周囲・口蓋に生じる
  麻痺は次第に増強し、完全麻痺となることも多い

 特発性顔面神経麻痺
  原因の不確定のもの
  精神的ストレスや自己免疫等が関与するとされる
  ヘルペスウイルスの再活性化によるものと考えられる
  多くは数時間で麻痺発生
  一般に不全形で味覚低下や聴覚過敏を伴う
  3ヶ月~1年で8割程度が自然治癒するとされる
  
 神経障害の程度
  神経無動作、軸索断裂、神経断裂の3段階
  神経無動作
   損傷が軽微で軸索断裂性がない
   一過性の興奮性伝導中断の状態、基本的に回復
  軸索断裂
   損傷が高度で軸索に断裂が起こったもの
   周辺組織の連絡残存、末梢軸索芽中心部軸索の進展により回復
   再生が本来と異なる筋や腺の神経支配領域に及ぶと病的共同運動が生じる
  神経断裂
   神経組織が完全に断裂し線維化した状態で
   Waller変性を生じた末梢神経は回復しない
   神経吻合や移植などが必要
 検査
  脱神経の有無や程度を診断するため行う
  神経興奮性検査や誘発筋電図検査、強さ時間曲線、筋電図検査等
  神経興奮性検査
   電気刺激を与える時の顔面筋肉収縮の閾値を測定する
  誘発筋電図検査
   針電極を用いて茎乳突孔付近で神経幹を刺激し誘発される筋攣縮を筋電図検査記録
   左右の複合筋活動電位の振幅とその時の興奮性閾値などを比較
  強さ時間曲線
   神経末端へ脱神経が進むと持続の短い矩形波ほど興奮閾値が高い
  筋電図検査
   口輪筋・眼輪筋・前頭筋について随意運動時の測定
   10日以上経つとニューロン変性しfibrillation voltageを認め、神経再生電位を認める
  評価
   神経興奮性検査や誘発筋電図検査では麻痺発症後3日以後に可能
    1週間程度の間に改善傾向認めれば機能回復を期待
    興奮性の低下を認めれば神経障害が進んでいると評価
   強さ時間曲線では1週間以降
   筋電図検査では10日以降に診断価値あり
    1~2週間以内に筋活動が証明できれば予後良好
    fibrillation voltageを認める場合には予後不良
 診断
  障害部位は電気味覚検査やアブミ骨筋反射検査、
                 涙分泌検査等の結果から判定
 治療 
  Bell麻痺やHunt症候群等の大部分は保存的治療で回復
  初期安静、ステロイド大量投与、
    血管拡張剤や代謝改善薬・ビタミン剤・抗ウイルス薬等を使用
  外科的治療
   減荷手術
    完全変性を生じ3~4週間回復の望みない場合
    顔面神経管を開放し神経鞘を切開
    側頭骨内損傷や耳下腺部神経損傷に対し、神経端々吻合
    損傷部が1cm以上の時は大耳介神経等を使用し神経移植
    神経交叉吻合術では同側舌下神経・副神経を顔面神経と縫合
    その他、神経血管付き遊離筋移植による顔面形成術